施工者の選び方
直接それぞれに依頼する場合はいいのですが、より公平性を満たし、より満足するものを安心して作りたい場合は、設計者を立てることが考えられます。公共建築を建てる時と同じ考え方です。
お寺はある意味、檀信徒を対象とした公共建築でありますし、私自身も設計者ですので、設計事務所を主体とした工事の進め方を勧めます。その場合のより具体的な施工方法を解説していきます。
組み合わせには以下のような方法があります。
- 設計者に設計・監理を依頼し、その設計図により施工を入札にする方法
- 設計者に設計・監理を依頼し、その設計図により施工は複数社の見積もり合わせとする方法
- 設計者を決め、施工は一社で特命にする方法
- 設計者に設計・監理を依頼し、その設計図により施工は宮大工に依頼する方法
寺院内の建物(本堂 客殿 庫裡)などを建築する場合、その多くは檀信徒の寄付に頼る場合が多くなります。
寺院の財産を処分して資金を捻出してもそれは個人のものではなく檀信徒の共有財産です。
それゆえに、業者の選択につきましても公平な方法をとることが得策です。
1. 設計者に設計・監理を依頼し、その設計図書により施工を入札にする方法
設計者をたてて、施工者は入札するやりかたは、公平な方法として公共建築を造る場合にも採用されています。しかし、この方法も欠点があります。設計者を選ぶ時と、入札参加業者を選ぶときです。
良い設計者を選んだ場合でも、入札時には、あらゆる方面から推薦業者が集まります。能力の無い会社や、見積もり不足により安札を入れた業者に落札してしまう可能性が考えられます。安ければ良いという考え方もありますが、寺院建築の場合、能力の無い会社には施工出来ません。
少なくとも、業者を選定するにあたって、選定条件を設定する必要があります。入札方式は、大きな事業に適していると思われますが、選定条件の設定次第では、事業に見合った業者が参加できなくなる恐れもあります。
設計図書があり、監理者がいれば誰が施工しても同じ建物ができるはずだから、それならば少しでも安い業者にやらせよう、という考え方をしてしまいますが、そうではなく、良い建物を作るには、全ての業種において良好でなければなりません。みんなで助け合いながら作り上げるのが建築なのです。
2. 設計者に設計・監理を依頼し、その設計図書により施工は複数社の「見積もり合わせ」とする方法
これは設計図書の完成までは①、と同じ方法ですが、入札の合計金額を比較して業者を決定する方法と違い、各社から内訳明細を提出させ、その見積もり内容を検討して一番妥当と思われる業者に決定する方法です。
業者の能力が見積もり内容をとおしてしかわからないということはありますが、能力人格ともに良き設計者を得た寺院側が、その設計者を尊重して判定の協力を求めた場合には、①、と比べ数段良い方法といえます。しかし、設計者に偏見があったり、寺院側の誰かが圧力を加えた場合は、混乱を招く場合もでてきます。
3. 設計者を立て施工者は特命にする方法
これは、施工者がすでに決まっているけれども、その業者に設計能力が不足するので、ほかに設計を依頼する場合とか、設計は誰それの設計が気に入った、施工はこの会社が信頼できるといった場合です。これらはいずれも信頼関係で成立しているため特に問題はありません。
しかし、その業者が一般建築に関する能力が十分であっても、寺院建築に関する能力が不十分であるということが考えられますので、業者の選定と依頼には十分に注意してください。
4. 設計者に設計・監理を依頼し、その設計図により施工は宮大工に依頼する方法
この方法は、木造の本堂を建てる場合においては有効かもしれませんが、宮大工の能力のみならず、設計事務所の能力がかなり問われます。普段から工事会社に頼り切っている設計事務所では出来ません。
職人と同等のやり取りが出来る設計事務所を選択する必要があります。
また、工程管理が難しくなるので、良い建物を建ててくれれば半年くらい遅れても大丈夫だよ!というお寺には適しているかもしれません。
いずれにおいても、設計者・施工者の能力及び技術の善し悪し、良心的か否か、人間性にあふれた人材なのか、どれが欠けても満足なものは出来上がらないことを知っておかなければならいません。
設計者・施工業者の能力と良心の相乗効果を考えた場合に、その選定がいかにむずかしいことかおわかりになるかと思います。
ではどうやってその能力を見極めるのか?これがとにかく難しいのですが、工務店の内情を知りたければ、設計事務所から情報を聞き出すのもいいですし、設計事務所の能力を知りたければ、工務店の営業マンから批評を聞くのもよろしいでしょう。結局餅は餅屋です。
建築業界の事を知りたければ、その業界から聞き出すのがいいかと思います。癒着があってはマズイですが、工務店の営業マンは沢山の情報を持っています。
繰り返しになりますが、業者を選定するということはとても難しい事です。
月並みの解答になってしまいますが、私自身の判断基準は、だいたい同じレベルであれば、結果的には人格者を選ぶのがよろしいかと思います。