設計事務所に依頼する
巷には設計事務所がたくさんあります。どの設計事務所を選ぶかはとても難しい選択です。設計事務所にはそれぞれ得手不得手があります。木造が得意な事務所もあればマンションばかり設計している事務所もあります。
設計事務所は弁護士と同じ資格商売なんだから、店を構えている限り有資格者であるからして、どんな建物でも設計できるはずだろう!と思われる人もいますが、どんな分野でも専門あがあるように、同じ1級建築士であっても得手不得手があって当然であります。
だから、知り合いの設計事務所があってそこでお願いしようとなったとしても、その設計事務所が社寺建築を手掛けることができるかどうかはわかりません。社寺建築はその特殊性ゆえに、配慮しなければならない勘所がたくさんあるのですが、やはり社寺建築専門の設計事務所にお願いするのが妥当だと思います。
設計事務所を選ぶポイント
ここで何をポイントに設計事務所を選ぶべきか幾つかあげてみます。
設計事務所は個人経営の事務所から数人~10人くらいまでの事務所が多いかと思います。それ以上の人数を抱えている設計事務所は組織設計と呼ばれ、公共建築や大型建築物をメインに手掛ける会社になります。
当然の事ながら、設計事務所であっても、個人事務所と比べると、抱える所員が多ければ経費もかかります。設計料の料率の差はそこから発生します。
住宅程度ですと10%くらいの設計料が標準かと思いますが、工事の難易度が上がると高くなったり、規模大きくなると料率に応じて低くなります。
住宅の設計であれば個人事務所に頼むのが一番最適だと私は思います。とことん親身になって取り組んでくれます。所員数が多い組織になると採算の事ばかり考えて、なかなか我儘を聞いてくれないこともあります。
注意したいのが、工務店任せの設計事務所です。
設計図面に不具合があった場合の尻拭いを工務店にさせたり、施主の前でいばって工務店に命令してみたり、いわゆる先生気取りの設計事務所です。工務店が工夫した努力を設計事務所の手柄にすり替えてしまう場合もあります。これでは、お互いに協力し合って良いものを作り上げるというポリシーに反します。人間性の問題かもしれませんが、そういう姿勢で設計監理をすることは設計士として失格だと思います。そういう事務所かどうかを見極めるには工務店に聞いてみるといいですね。
工事の知識が無いので工務店に全てお任せするような設計事務所は本当に多いです。そんな設計事務所を見極めるのは、判りづらいのですが、一番大切な事があります。
小さな工事を避ける事務所です。工事費が小さな設計を避ける事務所は要注意です。小さな工事ほど、建築のテニヲハを知っていないと設計できないからです。
もう1つ、分離発注方式が出来ない設計事務所も要注意です。工務店に頼り切っている恐れがあります。分離発注方式とは、設計事務所が工務店替わりとなって工事を采配する方法です。1000万を下回るような工事ですと工事会社に依頼しても高くつきがちで、むしろ設計士が現場を采配したほうが効率的な場合が多々あります。しかしながら、分離発注方式は建築工事の多くの事を知っていないと出来ないので、それを避けたがる設計士は普段から工務店に工事の全てを任せっきりにしている恐れがあるのです。
特に社寺建築の場合、職人に直接伝えるべき事もたくさんあります。しかし職人や大工に何も指示を出せない設計士も多くいます。工務店任せの場合、その傾向は顕著です。社寺建築で有名な設計事務所であってもそういう傾向はありますので、確かめる手段として、小さな工事も出来るのか、もしくは分離発注方式も出来るのかを確認するといいかもしれません。
もう1つ、木材の樹種を判らなかったり、木組みを知らない設計士は要注意です。設計士は木造を知らないとよく職人たちに馬鹿にされる事があります。寺院建築を手掛ける設計事務所であってもそれらのことを知らないことは良くあります。木造のお寺を作る場合は、それらをチェックすることはとても重要です。
時々見られるのが、社寺建築を一般の設計事務所に依頼するパターンです。時々大工さんから見積もりしろと言われたと渡された図面を見る機会があるのですが、それを見ると一目で素人が描いたのではないかという図面があらわれます。社寺建築は一般建築に無い特殊な納まりがたくさんあります。それがまったく表現できていないのです。こういう傾向は決して一般建築しか手掛けたことが無い事務所に限ったことではなく、社寺建築を沢山手掛けてきた事務所でもあります。社寺建築の場合、図面が適当でも宮大工が何とか仕上げてくれます。
ただ、それでは何のために設計事務所を選んだのかわかりません。
設計事務所にも色々なタイプがあります
その一例を挙げてみます
ビジネスライクなタイプ
宣伝やブランド力の強化にばかりに力を入れて実力が無い恐れがある。採算にこだわり親身に設計をしてくれない。変更すると設計料の追加を請求してくる。現場は所員に任せきり。仕事量で工務店をコントロールし、実際の工事を工務店に頼り切っている。
情熱タイプ
建築に情熱をかけすぎて事務所としての採算はとれていないタイプ。良い建物を作るために徹底した情熱を傾けているため、施主からするとありがたい存在。借金がある場合は銀行から見放される恐れもある。
古典的なタイプ
古い設計士のスタイル。設計士は資格商売だから偉いんだというプライドがあり、いばっている。先生と呼ばれることにステイタスを感じている。
下請けに徹しているタイプ
営業努力をせず、工務店や大きな設計事務所の下請けに徹している。
新しい事をするんだという想像力には欠けている。
設計事務所を公平に選ぶ方法
設計コンペ
設計事務所を選ぶ方法で一番公平な方法が設計コンペです。
設計条件をしっかりと決め、それに基づいて設計コンペをします。
複数の設計事務所に条件を満たす案を提出してもらい、その良し悪しを檀信徒の皆様で決めてもらうという方法です。出された案に対して人気投票をするというものです。
プランを作成し、今回の計画を提案してもらい、それを実現するには概算でどれくら必要となるのか、工期も含めて提出してもらう。
ちなみに、コンペで事務所を選んでも、その案で進めるのが一般的ですが、改めて要望を問い直して最初から基本設計を作っていくことも可能です。その際には、コンペの要綱に1言書き添えておくと良いでしょう。
設計コンペですと最も公平に設計事務所を選ぶことが可能となります。
設計事務所への負担は大きいので、必要に応じて謝礼を渡すこともマナーかと思います。
プロポーザル
これは具体的な計画案を出してもらうのではなく、簡単なプレゼンテーションやヒアリングを行い、その設計士の人柄や事務所の雰囲気を見極めるものです。発注者は提案ではなく「人」を選ぶので、初期の段階から設計者をパートナーとした協働体制のもので設計を進められます。しかしながら、設計案を選ぶことにはならないので、計画に対する公平性が担保できない問題点があります。
デザインビルド方式
最近少しづつ増えているのがデザインビルド方式。
これは設計事務所と工務店がタッグを組んで、計画案と見積もりを提出するものです。基本的にはデザイン案の良し悪しで判断されます。
従来のように、図面を描いて、それに基づいて見積もりをしてもらうと大きく予算オーバーとなる場合があります。 予算オーバーで対処できる範囲であればいいのですが、それもままならない事もあります。入札であれば応札する工務店が一向にあらわれないという恐れもあります。
それが予め設計事務所と工務店が組んで提案をしていれば、後から大きな変更が生じる恐れはありません。
複数社で競い合えば、当然の事ながら競争原理も働き、魅力的な提案をなるだけお値打ちに提出しようという動きにもなります。
今話題の国立競技場もこのデザインビルド方式が採用されています。
ある程度の予算が伝えてあればこの方法は工事の短縮にもつながりますし、無駄な増額も少ないので案外よいかもしれませんね。
大切なマスタープラン
良く見かけるのが場当たり的な増改築です。将来壊せば良いという考えであっても、あまりにも残念な工事をよく目にします。
境内地をどのように利用するかは、巻頭で述べましたように、お寺の事業計画を真剣に考えると見えてきます。
事業計画書に基づいてコンペをさせてもよいかもしれません。マスタープランに答えはありませんが、お寺の要望に近い、あるいは望ましい計画を選び、そのプランを実現させるために少しづつ計画を実現化していけばよいのです。
まとめ 設計士を選ぶ上で大切な事。
- 設計事務所への負担は大きいが設計コンペをすれば公平性が保てる
- プロポーザル方式では公平性は保てないが、計画の発足段階でお寺のアドバイザーとなってもらえる。
- 工事屋に頼り切っている設計事務所は避ける。
- 小規模な工事や、分離発注方式でも難なくこなせる能力があるかが鍵。
- どこまで親身にプレゼンテーションしてくれるかがポイント
プランニング能力やプレゼン能力に大差がない場合は、人間性を重視したほうが良いと思います。気が合うか、方向性が合うか。意外にこれが最も大切な事かもしれません。